自閉症専門のカウンセラー、菅原です。
お子さんに言葉の遅れがあるお母さんから、「カードを見ても、描かれている物の名前が言えないから、覚えさせたほうがいいですか?」という質問をよくいただきます。
確かに不安ですよね。
しかし、絵カードで物の名前を覚える訓練はやめましょう。
その理由を3点お伝えしていきますね。
①違うカードを使うと答えられず、覚えたことにならないから
お子さんが物の名前を言えないので、カードを使って訓練しよう!と考えるご両親が大勢いらっしゃいます。
この訓練は「フラッシュカード」と呼ばれていて、問題を見て反射的に答えられるよう反復練習をさせるわけです。
これを継続し、家で使っているカードは全て覚えたとします。
パッパッと答えていくお子さんの様子を見ると、ご両親も安心するでしょう。
でも、そこで今までと違うメーカーのカードを使うと、途端に答えられなくなります。
「りんご」のような単純な物ならほとんど違いはありませんが、「家」や「お風呂」といったものだと、メーカーによって図案がかなり違ってきますよね。
それを見せると答えられない…というのは実際よくあるケースです。
このような暗記の訓練は、お子さんに対して特定の「図案」を覚えさせているにすぎません。
絵カードは描かれている物の立体像や感覚、概念までカバーしている訳ではなく、それでは「言葉」を教えたことにはならないのです。
②ことばの理解は物体を見ただけで育つものではないから
カードでも実物でも、単純にそれを見せながら名前を教えることは実は簡単です。
同じ脳神経の回路だけを繰り返し使うので、どんどん反応が速くなり、一見成果が出ているように思えます。
しかし言葉を習得するためには、物の名前だけが分かればいいというわけではありません。
言葉の習得には前提として確かな「認知」が必要です。
例えば「本」という言葉を目にした時、頭の中で起こる反応(認知の仕組み)を考えてみます。
「あの本が面白かった」
「表紙がツルツルしてる」
「次の展開にハラハラした」
「図書館の天井が高かった」
…など、単語から頭の中で瞬時に色々な連想が広がり、記憶の中から「本」に関係する情報が一斉に立ち上がってきます。
これが「認知」です。
言葉の発達のもとである「認知」は、感覚や感情を伴った無数の経験が記憶に蓄積されることで生まれます。
単純にカードの図柄を当てるクイズを繰り返したところで、認知を促す生きた経験としては不十分です。
③「訓練」しても「自分で考える力」につながらないから
フラッシュカードの「反応の速さ」を賞賛する分野は多くあります。
例えば消防士の出動です。
一定の手順をどれだけ早く、何も考えず反射的にできるか。
効率やスピードが問われる仕事や競技においては、こうした評価基準があります。
けれど、人間は本来「感じて考える」生き物で、言葉を使って考えることができます。
自分の体験的な記憶を元に、言葉を使って自分なりに考えて、判断できるのが人間の長所です。
そしてそれこそが、人間が社会で生きていく力の本質だと思います。
生活の中で、訓練した方が良い場面があるのは事実です。
しかし、お子さんの発達に関しては、訓練で身につく「スキル」と、認知を元に「考える力」は区別しましょう。
感じたり考えたりするプロセスを伴わない「訓練」は、認知の成長が必要な「言葉の発達支援」とは目的が異なることを覚えておいてください。
まとめ
絵カードを使って単純に物の名前を教えこむのはお勧めできません。
意味理解の広がりが乏しく、お子さんの感じ・考える過程や、認知を伸ばす機会を奪うからです。
では、どうしたらいいのでしょうか?
言葉や認知を伸ばすための「わかる」経験がしっかり起こるように、どんな工夫ができるのか?
当ルームの提案は「こんなことから始めよう」に書いています。
よかったらご参考になさってください。

写真は3歳くらいから遊べる「テンポフィッシュ」というボードゲームです。ことばは使って覚えるもの!一緒に遊んだりするうちに、自然と成長がわかります。
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